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第22話 その王妃様、ホント気苦労が多くないですか?

last update Date de publication: 2026-07-22 15:30:55

王都の東に位置する王城の中には、瀟洒しょうしゃなガラス張りの温室がある。

そこでは社交界で知られた夫人達が集う恒例のお茶会サロンもよおされていた。

その会場の中心に設置されたテーブルで二人の美女が談笑していた。主催者の王妃オルメリアと側妃エレオノーラである。

黄金色こんじきに輝く髪に、理知を湛える青い瞳の美女オルメリアは参加している顔ぶれを確認して一つ頷いた。今日も社交界に影響力を持つそうそうたる面々が揃っている。

「今日の会にはウェルシェを招いているの」

二児の母であるオルメリアは歳を感じさせない美しい笑貌を隣に座る側妃エレオノーラに向けた。

「まあ! それは本当?」

エレオノーラはまあっと花の咲くような笑顔を見せた。海を思わせる鮮やかな青い髪と瞳を持つ彼女の容貌は、国王の寵愛を受けるだけあってとても愛らしい。

「エーリックったら婚約者ウェルシェさんに合わせてくれないのよ」

そう言ってぷくりとムクれるエレオノーラには、十代の息子がいるとは思えぬあどけない可愛らしさがある。

「メリー様が羨ましいわ。妃教育で息子の婚約者イーリヤさんと仲良くしているのでしょう?」

メリーはオルメリアの愛称で、国王とエレオノーラしか呼ぶのを許されていない。逆にオルメリアはエレオノーラをエレンと呼んでいる。

「そんな良いものでもないわ。あのには避けられていて妃教育以外では顔を出してくれないもの」

 エレオノーラの幼い仕草にオルメリアは苦笑いした。

「今日だって参加を断られているしね」

「若い子にとっておばさんとのお茶会は煙たいものなのかしら?」

おどけたエレオノーラの笑いとは対照的にオルメリアの顔は少し曇った。

「そうかもしれないわね」

イーリヤは妃教育以外では絶対に王城を訪れない。本来なら王妃の誘いを断るなど論外なのだが、オルメリアは彼女の無礼を黙認している。

いや、黙認せざるを得ないと言った方が正しい。

オーウェンとイーリヤの婚約が現在かなり微妙な状態になっているせいだ。

もともと息子オーウェンの婚約者としてイーリヤを選んだのはオルメリアである。

有力なニルゲ公爵をオーウェンの後ろ盾とするのも理由の一つであったが、優秀で誠実そうなイーリヤなら王妃として申し分ないとも考えたからである。

イーリヤなら将来オーウェンが国王になった時に王妃として立派に支えてくれるだろう。その確信を持って婚約の打診をした。

ところが、婚約話を持っていくとニルゲ公爵とイーリヤは難色を示した。

ニルゲ公爵家はマルトニア王国で国王に次ぐ力を有しており、良識あるニルゲ公爵としては王妃を輩出して更に権力が集中するのを嫌ったのである。

あまりに強い力は国を乱しかねないし、周囲からのねたそねみがニルゲ公爵家にとってマイナスにしかならないとの政治的な判断だった。

ニルゲ公爵の気持ちはオルメリアにも分からないでもない。

問題はイーリヤである。彼女は何故か最初からオーウェンとの婚約話には乗り気ではなかったのだ。

お陰でこの婚約を成立させるのにオルメリアはだいぶ苦労させられた。最終的に婚約に漕ぎ着けるまでに、色々な条件を飲まされたのだ。

もっとも、条件のほとんどが違反事項とその時の婚約解消に関するものだけ。とてもニルゲ公爵家に富や権勢を産むものではなかった。

当時は婚約を結ぶのに必死だったし、ニルゲ公爵も富と権力を欲してはいなかったので、オルメリアはあまり気に留めてはいなかったのだが……

しかし、この条件のせいでオーウェンとイーリヤの婚約は破綻しそうになっていた。

(まさかオーウェンが浮気するなんて)

この浮気が婚約解消条項に抵触するのだ。

既にニルゲ公爵からは再三の婚約解消要請がきている。

なんとか宥めすかして婚約を維持しているのが現状だ。

(イーリヤはこうなると分かっていたのかしら?)

条件の中にやたらと浮気の条項が組み込まれていたことが、今にして思うと不思議でならない。

このままではオーウェンとイーリヤの婚約は破局を迎える。

(だけどオーウェンはいくら説得してもイーリヤが悪いの一点張りなのよね)

当然、オーウェンの行状をたしなめたのだが、イーリヤがその男爵令嬢を虐げたのが悪いと聞く耳を持たないのだ。

(あの子オーウェンは自分の置かれている立場を理解しているのかしら?)

イーリヤとの婚約が解消されればニルゲ公爵を敵に回してオーウェンの立太子は難しくなる。

(暗愚の兆しが見える者を国主にするわけには……)

オルメリアとて一人の母親。息子を愛している。だが、彼女はそれ以上に国母としての意識が強い。だから、とても今のオーウェンを国王に据える気にはなれない。

(せめて、近侍として選んだ子弟達が臣下としてあの子を支えてくれれば救いはあるけど)

学園で最も優秀なレーキ・ノモやシキン家の嫡男など優秀な面々を登用してオーウェンの側につけたのはオルメリアである。

オーウェン自身に国王としての能力が乏しくとも彼らが盛り立ててくれれば救いはあるはず。

「それでもオーウェンが愚かな振る舞いを改めないなら……」

王位継承権の剥奪もやむなし――オルメリアは暗い想像にため息を漏らしたのだった。

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